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循環器領域 血管内皮機能

血管内皮機能

血管内皮機能は、文字通り、血管内皮細胞の機能のことです。血管内皮細胞は、我々の全身をめぐる血管の最内層にある細胞で、血管の健康状態を維持するのに非常に重要な役割を果たしています。血管内皮細胞は一酸化窒素(NO)やエンドセリンなど数多くの血管作動性物質(血管に働きかける因子)を放出しており、血管壁の収縮・弛緩(血管の硬さ・やわらかさ)をはじめとして、血管壁への炎症細胞の接着、血管透過性、凝固・線溶系の調節などを行っています。
血管内皮機能は、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などに加え、最近話題のメタボリックシンドロームなど、様々な生活習慣病によりその機能が低下します。血管内皮機能が低下した状態が続けば、動脈硬化の進展、さらにはプラーク(粥腫)の不安定化を引き起こします。しかし、この動脈硬化の初期段階である血管内皮機能の低下は可逆的であることから、この血管内皮機能の低下した状態を早期に発見し、さらにはその機能を高める介入をすることができれば、動脈硬化の予防につながります。ここに、血管内皮機能を改善する機能性食品を開発する意義、そして、その血管内皮機能を臨床的にしっかりと評価する意義があります。

血管壁の構造

生活習慣病における血管内皮機能の重要性

血管内皮機能を測定するメリット

1. “血管”や“動脈硬化”をテーマとした試験の評価項目として

血管内皮機能の低下は動脈硬化の初期段階で起こります。血管内皮機能の改善は動脈硬化の予防につながり、血管の健康やしなやかさの維持・改善をもたらします。動脈硬化を直接的に評価するためには長期間の食品摂取が必要となりますが、血管内皮機能は鋭敏に反応するマーカーであり、短期間の摂取にてもその効果を実証することが可能です。

2. 冷え性、肩こり、更年期障害などの体調異常改善作用の支持的データに

血管内皮機能は、冷え性や肩こりなど、普段自覚する体調の異常にも深く関与しています。中高年女性の更年期障害にも関与しています。これらの体調異常に関する臨床試験実施時にも、主観的評価に加え血管内皮機能を評価することにより、より客観的で説得性のあるエビデンスを構築することができます。

3. 生活習慣病改善の作用メカニズム解析に

血管内皮機能は、高血圧、耐糖能異常・インスリン抵抗性、脂質代謝異常、肥満・メタボリックシンドロームなど、様々な生活習慣病の発症・進展に深く関与しています。これら生活習慣病に関する臨床試験実施時に、血管内皮機能を同時に評価することにより、関与成分の作用メカニズムを明らかにすることができ、より説得力のあるデータとなります。

血管内皮機能の臨床評価法

1. プレチスモグラフィ

上腕の静脈還流を静脈圧にて停止させた状態にて、前腕の容積の変化をストレインゲージにより測定することにより、反応性の血流増加(reactive hyperemia)を評価する方法です。この際、動脈から静脈へのシャントの豊富な手掌への血流を遮断するため手首を駆血しておきます。内皮細胞の刺激方法としては、上腕部にマンシェットを巻くことにより駆血し、その後開放する方法と、アセチルコリンなどの薬剤を上腕動脈に注入する方法があります。当社では主に前者を採用しており、この場合、開放による血流増加により血管内皮細胞にずり応力(shear stress)がかかり、血管内皮細胞からNOやEDHF(内皮由来過分極因子)などの血管拡張因子が放出され、血管が拡張することにより、前腕部の血流が増加します。このプレチスモグラフィでは、前腕部の比較的細い血管(抵抗血管と言います)の内皮機能を主に評価しています。

2. FMD (Flow-Mediated Dilatation、血流依存性血管拡張反応)

高解像度超音波装置を用いて上腕動脈の安静時血管径と反応性の血管拡張度を測定することにより、血管内皮機能を評価します。具体的には、まず超音波装置を用いて上腕動脈を長軸にて抽出し、安静時血管径を測定します。この際、血管内皮層がきれいに抽出されていることが必要であり、ある一定以上の技量・経験が求められます。ちなみに上腕動脈の安静時血管径は、男性では約4mm、女性では約3mmであり、上腕部の最大の動脈でもこの程度の細さです。安静時血管径を測定し終えた後、前腕部をマンシェットにて5分間駆血し、その後開放することによってずり応力を惹起させ、内皮依存性の血管拡張度を測定します。この際、上腕部での駆血でも構いませんが前腕部駆血の方がよりNO依存性が高いと言われています。FMDの算出は、安静時血管径(mm)に対する最大血管拡張度(mm)の比(%)で計算され、6~7%未満であれば血管内皮機能が低下していると考えられます。

プレチスモグラフィの測定の様子と結果の一例

FMDの測定の実際と計算式

血管内皮機能の血中バイオマーカー

1. NOx

NOは、血管において内皮型NO合成酵素(eNOS)によりLアルギニンを基質として産生される血管拡張因子です。血管内皮から分泌されたNOは血管平滑筋に作用し、そこでcGMPの産生促進を介して、血管平滑筋の弛緩を促します。血管内皮機能が低下した状態では、eNOSによるNOの産生が減弱していたり、あるいは、酸化ストレスの影響などによりNOの分解が促進され、結果としてNOの量(bioavailability )が低下します。NOxはこのNOの代謝産物(NO2-とNO3-)の量を測定した値であり、血管内皮機能の指標となります。一般的にNOxの測定は、NOが気体であることなども影響し、精度の高い測定をすることは難しいのですが、当社では、国立循環器病センター・心臓血管内科部長の北風政史先生のご協力の下、非常に高い精度にてNOxを測定することが可能となっています。

2. hsCRP

動脈硬化巣に炎症細胞の浸潤が見られることなどから、動脈硬化は血管における慢性炎症であり、血管内皮機能の低下にはこの血管の炎症が深く関与します。このような背景から血管内皮機能の血液学的指標として高感度CRP(hsCRP: high-sensitivity CRP)が重要視されています。
このCRPの興味深い点は、単なるマーカーとして機能するだけではなく、動脈硬化や血管内皮機能低下に直接的に関与することです。つまり、CRPは血管内皮細胞などの血管構成細胞にて産生され、さらにこのCRPが、オートクライン・パラクライン的に血管内皮細胞や血管平滑筋細胞などに作用して、VCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)やICAM-1(intracellular adhesion molecule-1)、PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)、アンジオテンシンなどの発現を誘導したり、あるいは活性酸素の産生を高めることが知られています。
さらに、このhsCRPが3mg/l以上の高値を示すヒトは、将来、心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群を起こしやすいことも示されており、米国AHA/CDCは、生活習慣病のリスクファクターの集積が中等度以上の患者においては、このhsCRPを積極的に測定すべきであるとしています。
これらのことから、機能性食品の臨床試験においても、このhsCRPは外せない項目です。

3. ADMA

血管内皮機能の新規のバイオマーカーとして期待されるのが、ADMA(Asymmetric Dimethylarginine)です。ADMAはL-アルギニンとよく似た構造をしていることから、eNOSの内因性阻害物質としてはたらき、血管内皮からのNO分泌を抑制します。ずり応力による血管拡張反応も直接的に阻害します。また、FMDなどで評価した血管内皮機能と負の相関を示すことが知られており、血管内皮機能が低下するにしたがって血中ADMAの値は上昇します。さらに、高血圧や糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性末梢血管障害などの心血管疾患にてその産生が亢進しており、心血管系イベント発生の予測マーカーに成り得ることが報告されています。また、頚動脈の内膜中膜複合体IMT(アテローム性動脈硬化の程度)とも相関することが知られています。
興味深いことに、試験開始前のADMAの基礎値の高低が、血管内皮機能改善効果の発現に影響を及ぼすことが報告されており、食品素材によっては、試験のリクルート段階からこのADMA値を考慮する必要があるものもあります。

血管内皮機能 試験デザイン一例

血管内皮機能 評価試験例

一般的に、血管内皮機能改善効果は、短い期間のものでは2週間ぐらいで発現することから、摂取期間は2週間あるいは少し長めに4週間とし、ウォッシュアウト期間を挟んでクロスオーバーさせる試験デザインが基本となります。もちろん、摂取期間の長さはそれぞれの食品素材の特徴・作用メカニズムを考慮して決めていく必要があります。女性の場合、エストロゲンの影響により血管内皮機能が性周期の期間中に変動することから、閉経後の女性を対象にするか、あるいは閉経前であれば性周期を考慮して試験デザインを構築する必要があります。

監修:大阪大学名誉教授 川野淳先生
文責:総医研クリニック 西谷真人

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