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消化器領域 肝機能・脂肪肝

脂肪肝とNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)

「脂肪肝」は古くから知られますが、近年、特に医療界では、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD: nonalcoholic fatty liver disease)、さらに非アルコール性脂肪肝炎(NASH: nonalcoholic steatohepatitis)と呼ばれる病態が重要視されています。
脂肪肝については、一昔前では「脂肪肝は肝炎にも肝硬変にも進行しないから大丈夫」という認識がなされていました。しかし最近では、肝臓に脂肪が沈着しているだけの単純な脂肪肝だと思っていた病態の中に、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)という、放置すると肝硬変、さらには肝臓癌をも発症する病態が含まれていることがわかってきました。
このNASHについては、実は約30年も前に報告されており、1980年にLudwigらが、多飲歴がないにも関わらずアルコール性肝炎に類似した肝組織所見を示し、肝硬変への進展を認める病態として発表しています。さらに1986年にはSchaffnerらが、飲酒歴がないにも関わらず、アルコール性肝障害に類似した肝組織像を示す疾患群をまとめて非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)という病態を報告しています。これまでウイルス性肝炎が注目されてきた背景もあり、これらの脂肪沈着が原因となる肝障害は最近まであまり注目されてきませんでした。しかし、現在では非常に重要な病態と認識されており、機能性食品による予防も極めて有益な病態です。

肝臓の機能障害を来たす病態は種々あります。代表的なものでは、B型肝炎やC型肝炎のようなウイルス性肝炎、お酒の飲み過ぎが原因のアルコール性肝障害、薬が原因する薬剤性肝障害、さらには自己免疫性肝炎や代謝性肝疾患などがあります。NAFLDは、これらの病態が否定され、かつ肝臓の組織所見にて肝臓への脂肪沈着が認められる病態を指します。アルコールが原因で脂肪肝を来たすことは従来より知られていたわけですが、このNAFLDはアルコールが関係しないことが特徴です。そして、このNAFLDの中には、肝細胞の脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝(simple steatosis)と、肝組織に壊死や炎症、線維化を認めるNASHと呼ばれる病態が存在します。NASHはNAFLDの重症型であり、 NAFLDの約10%を占めます。

NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の概要

メタボの肝臓表現形としてのNAFLD

NAFLDはアルコールではなく脂肪が原因の肝疾患であり、脂肪が肝臓に溜まることが発症と進展に深く関与します。一方、脂肪がお腹(内臓周囲)に溜まるのはよく知られたメタボリックシンドロームです。NAFLDはこのメタボリックシンドロームの肝臓での表現形と考えられており、実際、NAFLDでは、メタボリックシンドロームの構成因子である肥満や耐糖能異常・インスリン抵抗性、脂質代謝異常などを高率に合併します。さらに、メタボリックシンドロームでは内臓脂肪から分泌されるアディポサイトカインや遊離脂肪酸が病態形成に深く関与しますが、このNAFLDにおいてもやはりアディポサイトカインや遊離脂肪酸が発症・進展に深く関与します。メタボリックシンドロームは機能性食品開発において中心的な地位を占めますが、この肝臓におけるメタボリックシンドロームであるNAFLDや脂肪肝をテーマにした食品開発を進めることにより、医学的価値もあり、かつ独創的な食品の誕生につながるものと考えられます。

脂肪肝・NAFLDとメタボリックシンドローム

NAFLDの病態

NAFLDは肝臓でのメタボリックシンドロームですので、その病態形成の中心は、肥満とインスリン抵抗性であり、そしてこれらを結びつける因子として、アディポサイトカインの分泌異常と遊離脂肪酸が挙げられます。
つまり、メタボリックシンドロームの発症メカニズムと同様、まずは過栄養や運動不足により内臓脂肪が蓄積します。そして、内臓脂肪からの遊離脂肪酸の分泌亢進と、アディポネクチンの分泌低下やTNF-αの分泌亢進などを来たします。遊離脂肪酸は門脈を介して肝臓の組織に到達しそこで中性脂肪として蓄積され、脂肪肝の形成に直接的に関与します。さらに、この遊離脂肪酸やあるいはアディポサイトカインの分泌異常によりインスリン抵抗性が惹起され、肝臓への脂肪蓄積がさらに促進されます(1st hit と呼ばれます)。ここまでの病態でとどまっているのが単純性脂肪肝です。
そして、さらにアディポサイトカインの分泌異常やインスリン抵抗性などにより、過剰な酸化ストレスが発生し(2nd hitと呼ばれます)、肝臓における炎症や肝細胞障害、肝の線維化などが起こっている状態にまで進んだものがNASHです。このように、NAFLD やNASHの発症機序として現在two-hit theoryが広く支持されており、肝細胞への脂肪の沈着が1st hitであり、さらに酸化ストレスや炎症性サイトカインなどの肝細胞障害要因を2nd hitと呼んでいます。NAFLDや脂肪肝をテーマにした食品の開発を考える場合、これらのメカニズムを十分考慮し、どこの作用点を抑えるかということを吟味することが重要です。

NAFLD及びNASHの発症メカニズム “two-hit theory”

脂肪肝・NAFLDの臨床評価系

NAFLDや脂肪肝への有用性を実証するためには、まずはそれらに該当する被験者を正確にエントリーさせる必要があります。基本的には、明らかな飲酒歴がなく、ウイルス性肝炎等も否定され、肝臓に脂肪沈着を認め、そして肝機能障害を示す被験者をエントリーすることが必要です。肝臓への脂肪蓄積は、腹部超音波検査や腹部CT、あるいは1H-MRSにて評価されます。一般の臨床現場では、腹部超音波にて脂肪肝と診断することが多いのですが、臨床試験のように正確性・厳密性が求められる折には、腹部CTや1H-MRSが有用です。腹部CTにて、肝臓のCT値を脾臓のCT値で割った値(肝/脾比と言います)が0.9以下を示せば肝臓に脂肪が沈着しているといえます。
そして、肝機能マーカーであるASTやALTが高値である被験者をエントリーさせます。NAFLDでは、ASTやALTが基準値の2倍から4倍程度に上昇していることが多く、さらにはALT > ASTのことが多いというのが特徴です。
さらに、NAFLD以外の病態を除外する必要がありますので、HBs抗原やHCV抗体を測定することによりB型肝炎やC型肝炎を否定し、抗ミトコンドリア抗体や抗核抗体などを測定することにより自己免疫性肝疾患が疑われるヒトも除外し、さらに、トランスフェリンやセルロプラスミンなどを測定することによりヘモクロマトーシスやWilson病などの代謝性肝疾患が疑われるヒトも除外する必要があります。これらの選択基準や除外基準を事前にしっかりと検討することが肝要です。
さらには、NAFLDの中でも単純性脂肪肝とNASHを区別して試験を実施することも考えられます。厳密には、NASHの診断は肝組織を採取しその組織像にてなされるものなのですが、最近、単純性脂肪肝とNASHの鑑別に有用なマーカーの報告が多々出ています。具体的には、古典的な指標であるAST/ALT比の増加やヒアルロン酸やIV型コラーゲン7Sドメインなどの線維化マーカーの上昇、血小板数減少などが有名ですが、それ以外に、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、チオレドキシンなどの酸化ストレスマーカー、アディポサイトカイン分泌異常、高感度CRP、サイトケラチン18、DHEA-Sなどが鑑別に有用とされています。機能性食品の開発を考えた場合、NAFLDの中でも、病態の進行したNASHより、むしろそれ以外の単純性脂肪肝をターゲットにした方がよいと考えられますので、これらの鑑別マーカーを有効に活用し、単純性脂肪肝の被験者をエントリーさせることが重要です。
臨床試験の評価項目については、主要評価項目としては、ALT・ASTなどの肝機能マーカーと腹部CTあるいは1H-MRSによる肝臓脂肪蓄積の評価が基本となります。副次評価項目として、γGTPやALPなどのALT・AST以外の肝機能マーカー、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、酸化ストレスマーカー、アディポサイトカイン、高感度CRPなどを評価し、NAFLDへの有効性を総合的に検証し、かつ有効性の発現メカニズムの解析にも活用するのが効果的です。

NAFLD及び脂肪肝 臨床試験概要

図

監修:大阪大学名誉教授 川野淳先生
文責:総医研クリニック 西谷真人

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